柔和になる

 湯船に浸かっている人で怒った顔の人はまずいない。目を閉じて瞑想している人、へりに腰を預け半身浴を楽しむ人、額にうっすら汗を浮かべて赤らめた人、押しなべて柔和で幸せそうな顔になる。温泉温浴効果で脳細胞に特殊なアルファ線が発生するのだという学者の説があるがリラクセーション効果が大きいのではないか。温熱効果が筋肉の隅々までを解きほぐし、内蔵に休養を与え徐々に活性化させる。湯船で両手両足を大きく拡げると実感する。
 裸の付き合いとの謂いもある。衣服を脱いで裸になれば付帯物の若干の個人差はあるがおおきくは変わらない。お互いが「よく似たものをつけている」と心ひそかに安心する。冠を脱げばお互い平等と自覚して、会話は弾むことにもなる。
 昨年の東北大地震以降、「絆」が声高く叫ばれるようになった。本来、内面的で日本人特有の奥深いニュアンスの言葉が露わにされて戸惑っている向きもあるのではないか。それだけ、家庭、地域での人間関係が薄れ、世知辛くなっていることとも思われる。
 温泉温浴は漢方のように時間をかけて、繰り返すことで効果が出る。湯船に浸かって、暖かく、豊かな気分と時間を楽しむ。古来から引き継がれてきた日本人独自の誇れる習慣でもあり、エコな健康法ともいえる。温泉の力を再認識したい。

 平成二十四年  六月

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